2016年7月21日木曜日

リスクヘッジと自前主義

心臓のペースメーカーに代表される「植え込み型の医療機器」という製品群がある。その中にはパーキンソン病や神経因性疼痛に対して、小さなポンプや電気刺激を発するものを体の中に埋め込んで、そこから薬剤を少しずつ放出したり、電気刺激を出したりすることで症状を軽減させるものもある。

これらの製品の主要なメーカーは海外(米国)企業であるが、その製品を構成する部品のほとんどが実は日本製である。それらは基板(配線板)、電池、ポンプなどであるが、中国、韓国、台湾にはまだこれらの高性能パーツの製造は無理なのではないだろうか。

日本企業が日本国内でこれらの部品をアッセンブル(組立)し、製品を作ろうと思えば実現可能だろうが、それをやろうとするメーカーはいない(少なくとも例外的である)。不具合が発生した時の補償などのリスクを考慮すると、部品だけ供給したほうがリスクヘッジにかなっているのだろう。逆に言うと、顧客向けに製品を提供してリスクを取ってまで儲けなくても良いという判断かも知れない。

以上は私の経験から得た話。

過去の歴史においても似たようなことがあった。日本は銅の産出国として古くから中国(宋、明)に銅を輸出していた。中国はその銅を使用して貨幣を製造した。日本は輸出した銅のほか、輸出品の対価は先方の貨幣で支払いを受け、鎌倉~室町時代に日本国内で使用する貨幣はもっぱら中国の貨幣(宋銭、明銭)に依存した。国内での貨幣の流通量を考慮すると、自前で貨幣を製造するより原料(銅)を輸出して鋳造の手間をアウトソーシングしたともいえる。

以上は、司馬遼太郎著書の受け売り。

一方でイギリスは、EU加盟中もユーロを導入することなく、自前の通貨(ポンド)を維持していた。それがベネフィットのつもりがリスクとなり、EU離脱が決定した瞬間、通貨安となり、結果的にソフトバンクによるARMの買収を招いた。自前主義が思わぬところで仇となったと言えないだろうか。

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