2016年1月9日土曜日

鯛の神経抜き(神経締め)

今日の夕食は家族で近所のホテルに入っているフレンチへ。そのレストランはここ1、2年の間にシェフが変わったそうで、その後、手ごろな値段で美味しい料理が楽しめると評判が高い。

コース料理の一品として鯛のソテーが振舞われた。その時、料理を運んできたソムリエの説明では、「この鯛は九州・天草で揚がった鯛で、神経抜きという技法で鮮度を保って出荷されています」とのこと。この「神経抜き」とは、生きたまま水揚げされた後で魚を締める際に、脊髄に針金のようなワイヤーを通して脊髄を破壊することで死後硬直を遅らせ、鮮度をより長く保つことができる魚の締め方だそうだ。

この技法(後で調べると「神経締め」とも言うらしい)は日本発祥で、兵庫県の明石でいち早く取り入れられたという。妻もテレビで見たことがあるそうだ。

この話を聞いて、私は過去に経験したある動物実験の手法を思い出した。かれこれ15年近く前になるが、脊髄破壊ラットというネズミを使った実験をやっていたことがあった。中枢神経系の影響を排除する為、ラット(ネズミの一種で200g~400gの大きさでマウス、いわゆるハツカネズミの10倍くらいの大きさ)の脊髄の中に同じように金属の棒を通して脊髄機能を破壊(麻痺)させて、人工呼吸器下で薬の効果を評価する実験をやっていた。その時は、本来は粉を計るのに用いるスパーテルという鉄の棒の先を尖らせて、麻酔で眠らせたラットの眼窩(頭骸骨の目の所のくぼみ)からその棒を脊髄の中に通していた。そんな実験を4年ほどやっていただろうか。

この脊髄に針金を通す技法を英語でpith(脊髄穿刺する、脊髄破壊する)という。上記のネズミは"pithed rat"と呼ばれる。よって、神経抜き(神経締め)された魚を外国人に説明する際には、英語では"pithed fish"と呼べば適切に伝わるだろうか。

そして、さらに考えが及んだのが、どうやって漁師がその技法を取り入れたのだろうかということだ。もともと血抜きや温度管理などで鮮度を保つ工夫は行なっていただろうが、いつ、どのようにしてこの技法の発明に至ったのか。

神経系の専門知識や生物の死後の変化に関する専門知識のない、一般の漁師が試行錯誤でこのような技法の発明に繋がるだろうか。それは考えにくいのではないだろうか。一方、水産大学でそのような研究をされている方もいるのだろうか。それも考えにくいのではないかと思う。可能性のひとつとして、釣り好きの医学系の研究者がなじみの釣り船の漁師に教えてそれが試されて広まったということは無いだろうか。あくまでも私の経験をつなげた空想の域を出ないが。

もしこの技法が、魚の締め方に進化をもたらしたブレークスルーであったとして、それが本来、漁業とまったく異なる分野の専門知識が取り込まれて発明に至ったのだとすればとても画期的なことだ。そして、それが人間同士の触れ合いによるノウハウの伝授であったとすれば、尚、素晴らしい。




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