2023年6月5日月曜日

「あまちゃん」が描く理想郷

一世を風靡した朝ドラ「 あまちゃん」が今回の朝ドラと並行する形で再放送されている。「新作を食っている」という評価もあるようである。私はそこまでとは思わないが。

「あまちゃん」は東日本大震災の数年後(2年後、2013年)に、それに被害を受けた地域の(岩手・三陸地方)、震災前の市井の人々を描いたドラマだ。そこで描かれる内容は、東日本大震災で失われた日常、というよりは、正確にはそれまでの日常にもなかった理想とする姿のコメディである。

「海女」という文化にスポットライトを当て、都市部で適応できずにIターンで地方に来て、その海女という作業を通じて生活や人間性を取り戻す主人公のサクセスストーリーが、田舎の何とも言えないペーソスや哀しみを通じて表現される。それらはまるで都市での生活に対しても優位性があるかのようにも映る(描いている)ところに、私の好きなO・ヘンリーの「都会の敗北」という短編にも通じるものがある。

主人公が通う高校には潜水土木課という学科があり、それは他の地域では一般的には存在しない学科だ。その特殊技術を地元の公立校で身に着けることができる点なども、見方を変えれば他では得られないメリットだが、それもおそらく外部の目から見ない限り、分からない。えてして、若者が地元の良さに気づかずに、だた外に(都会に)出ることが目的化してしまっていることも共通の心理があるように思う。

日本の人口が減少し、地方が急速に衰退し、一方で都市部は過密が進む。日本のすべての地方が根底に抱えている問題を、岩手・三陸というフィルタを通して映し出し、ネタを仕込み、笑いに変えたところが成功のポイントだろうが、物語はまだこれから『東京』を象徴する人物が次々に登場する。それらの都会の風俗との距離の近さもこの作品の魅力だろう。普通に田舎で生活していたら、まったく接点のない事柄ばかりだろうから。



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